PART3
「支える・支えられる」関係を超えたところに
生まれるソーシャルワークの力
堀田 地域包括ケアシステムの構築から地域共生社会の実現へ、国際的には「誰一人取り残さない」を理念とする SDGsが掲げられるなか、改めてすべての人特に専門職だけではなく、すべての人が持っている力をもっと開花させる、あるいは一緒に今ないものをつくっていく状況が望まれています。そういう側面では、今どんな取り組みが始まっているでしょうか?
石本 少子化における人手不足があるなかで、介護においては、プロが本来やるべきことを大事にし、プロじゃない方の力をもっと活用しましょうという点が大きく打ち出されています。さらに、多様な人材を介護の担い手として地域の中で育てる、ということも施策として明確にされています。外国人の方の参入も進められており、ダイバーシティというキーワードも出てきています。
我々三福祉士の目ざす国民福祉の向上という大きい目標のもとでは、地域の皆さんの福祉の質がどう上がっていくかが重要です。
堀田 介護サービスを利用しながらも働きたい、社会に貢献したいと願う方々が、地域活動に参加する、仕事に取組む場としても機能する介護事業所も出てきていますね。必要な支援を受けながらも参加しつづける支援を考えたときに、介護現場で出てきている芽はどんなものがありますか?
石本 まさに共生社会というのは、支える側と支えられる側に分かれるのではなくて、時にお互いが支え、それが入れ替わるということが前提となっています。さらには高齢者の就労というキーワードも近年出てきています。そうすると利用者でありながらも、その人が社会の中で果たし得る役割をちゃんとつくり、社会参加を促す、ということがもっとみんなの感覚のなかにできてくるといいですね。
旧態依然とした介護のありようでは、その方の自立性を高めるとか、意欲を引き出すようなことはなかなか難しいでしょう。
堀田 立場を越えて、同じ地域に暮らす生活者として、望む地域の風景を共につくっていくというプロセスのなかで、ソーシャルワークの役割についてお話しください。
西島 地域のなかでは孤独死が起きたりして、私たち社会福祉士が関わったり、地域の方たちも一緒に動いたりします。自分たちの地域だから自分たちで何とかしたい、と話される方もいて、自分が安心して暮らせる地域であってほしいと認知症についての勉強会を自発的に開かれたりしています。
もともと地域力が高くて住民同士の距離感が近いところは、即戦力がありますからさらに深まるようにサポートしますし、そうでない場合は、いつでも私たちソーシャルワーカーに相談してもらえれば、一緒に考えたいと思っています。ソーシャルワークのちょっとした知識とか視点があると、関わり方がすごく変わります。
堀田 暮らしにくさが見えにくく、また社会的な偏見を持たれやすい方々の支援に携わることが多い精神保健福祉士の方々にとっても、地域のなかで、「共に」というところが、チャレンジの一つではないかと思いますがいかがでしょうか。
柏木 今、私は堺の自立支援協議会で、防災のことを考える機会を持っていますが、平常時から自分たちがもっと地域に向かって開かれないといけない、と当事者の方がおっしゃるんです。地域の人に障がい者のことをわかってもらうためには、自らを可視化させないと、いざとなったときには誰も助けてはくれない、と。本当にそのとおりで、そのときに専門職である私たちは、必ず後ろから支えて行く存在であらねばならないと考えています。
最近では、地域に子ども食堂や、認知症のもの忘れカフェといったような、拠点の輪ができてきていますが、年齢やら障がい別にしないで、生活拠点の場を地域につくるという感覚が大事ですね。そこに専門職の相談機能を入れて、問題を早くからキャッチします。それが専門職としての力であると考えます。
堀田 この 10 年ほどを振り返ると、認知症のある方を含めて、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」の機運が高まってきています。当事者の声により社会を変える、当事者を含めて社会変革に取組むということに対して、専門職はどのような後方支援ができるでしょうか。
西島 当事者の方々が理解してほしいとあえて自分から語るのは、地域みんなのためにもなるし、自分たちも暮らしやすくなる。こういう取り組みってすごく大事な関わりだと思います。私たち専門職もそこでエンパワメントされることが多いですね。